研究者・映像作家 菅俊一 + 美術家   椛田ちひろ


《単位展》21_21 DESIGN SIGHT 会場にて
《単位展》21_21 DESIGN SIGHT 会場にて

単位展の内覧会で久しぶりに美術家椛田ちひろさんとお会いしました。
彼女との出会いは2007年当時、府中市美術館で始まったティーンズスタジオという若手現代アーティストによるワークショップの現場でした。ボールペンで紙に時間と手の運動を層にしてとてもプリミティブな面白さと、何かを暗示するような詩的なタイトルが印象的でした。《単位展》の企画チームのコンセプトリサーチを担当されている菅俊一さんと内覧会で初めてお会いし、思いがけず椛田さんを選出したいきさつなど貴重なお話をうかがうことができました。後日改めてメールインタビューした内容をご紹介します。

椛田さん、今回は21_21 DESIGN SIGHTで「単位展 ― あれくらい それくらい どれくらい?」に出展とお聞きした時はどんな作品をだされるのかなぁと思いました。どのような経緯でオファーされたのでしょうか。

椛田 普段から「ボールペンを何本くらい使っているんですか?」という質問を受けることが多いのですが、「単位展」はまさにその質問への答えになったでしょうね。ボールペン1本でどれくらいの線をひくことができるのか、そういう作品を出品して欲しいという依頼でした。いままでボールペンのインク量を見せるために絵を描いたことはなかったし、また、そうしたことを考えたこともありませんでした。何を表現したいかで結果的に道具の種類や分量が決まるのが普通です。道具やその量をみせる。そういう視点は初めてのことでしたが、面白い経験でした。

菅さんは今回、展示全体の企画・コンセプトリサーチとして企画チームに参加されています。多彩なお仕事の中にNHKEテレの0655や2355がありますね。わが家は毎朝0655見てるんですよ。その瞬間だけ総合からスイッチして(笑)。まずは椛田さんの作品と出会った時の印象はどんな感じだったのでしょう?今回のオファーのきっかけや面白さについてもお聞かせいただけますか?

菅 以前、MOTアニュアル2011《世界の深さのはかり方》東京都現代美術館で椛田さんの作品を拝見して衝撃をうけたんです。ペン1本だけで作り上げられていた作品を見た瞬間に、すごく美しい作品の背後にある、膨大な手を動かした時間とエネルギーが見えてとてもショックでした。今回の単位展では、1本のボールペンが持っている「どれだけ描くことができるのか」というポテンシャルを可視化するために、椛田さんの表現の力をお借りすることにしました。

菅さんは《速さの比較:マッハ1ってどれくらい?》や《はかりの工夫》などの作品制作もされています。単位は「見えないものを扱う」ために人間が生み出した〝知の道具”のようなものだと言われていますが「本展のここがみどころ!」をぜひ教えていただけますか?

菅 作品を見ていると、普段私たちが何気なく見ているモノの中に、どれだけ多くの単位が潜んでいるかが、作品を通じて分かると思います。しかしそれらの単位はどれも、初めからこの世界にあったものではなく、先人たちが長い時間をかけて知恵をひねって生み出したものです。そういった人間の知性の素晴らしさの一旦を感じてもらえれば幸いです。

椛田さん、単位展に参加することになりどんな感想をもたれましたか?

椛田 オファーがあったとき、ボールペンが好きなのでお受けしますって即答しましたね。今までデザイン展に参加したことがなかったので、単位というものさしが自分の作品に有効かどうか正直わからなかったのですが。実際に始まってみてわかりましたが単位展は、私たちの住む世界の仕組みのひとつに観客自身が気軽に参加できる展覧会なんですね。世界の測り方を探すアートとは違うアプローチで興味深く思いました。

府中市美術館で見せていただいたボールペンの一作目は高校時代に描かれたもので、不定形なものだったように覚えています。描きすぎて紙が破けたり、すりきれたりと時間の経過や表現方法がリアルに伝わってくるものでした。椛田さんの旧作品懐かしいですね。

「許されてもいないのに一晩を踊り明かしてしまった/疲れていたのでいつもの手順をとり違えてしまった」 2009年  和紙にボールペンで描画 160 x 120 mm(各冊約1000ページ)個展「シュヴァルツヴァルトメトリック」(アトランティコギャラリー渋谷/東京)提供 アートフロントギャラリー / 撮影 長塚秀人
「許されてもいないのに一晩を踊り明かしてしまった/疲れていたのでいつもの手順をとり違えてしまった」 2009年  和紙にボールペンで描画 160 x 120 mm(各冊約1000ページ)個展「シュヴァルツヴァルトメトリック」(アトランティコギャラリー渋谷/東京)提供 アートフロントギャラリー / 撮影 長塚秀人

椛田  高校時代の作品は今回の単位展にはありませんが、旧作は2点展示されています。上の写真の作品はとにかく手数が必要で、時間が無くて新幹線の中にまで持ち込んで描いて隣席のサラリーマンを怖がらせてしまったことも、今では懐かしい思い出です・・・。

へぇ~!初めてお聞きしました。そんなことがあったんですね。新作2点のうち1つはA4サイズの写真印画紙235枚に描いた《Superposition-上がることのない幕がそのステップを決定させない》、1つはA2サイズの紙に楕円のようなシンボリックな形に見える《消滅を生きる》、これは自然な手の動きに任せたと話されていますね。新作についてはぜひ会場でご覧いただければと思います。単位展の中でご自分の作品についての印象や参加してみて感想などありましたら、お聞かせください。

椛田 《消滅を生きる》はボールペン1本のみで描いた作品ですね。《事象の地平線》というもっと大きな作品が前身としてあって、これは大きな紙のまわりをぐるぐると回って出来上がる、真黒な楕円の作品でした。今回の《消滅を生きる》では紙の方を回して描きました。そういえばボールペンの本数については訊かれなくなりましたが、今度は「どれくらい時間がかかったんですか?」という質問を皆さんされるのが面白かったです。「単位展」の副題の「あれくらい それくらい どれくらい?」って、よくよく人の性分なのでしょうね。

これまでにも東京都現代美術館やアートフロントギャラリーでの個展やシンガポールでのレジデンスなど国内外での発表の場を広げておられますが、ご自身でも作品性に変化を感じますか?

椛田 発表の場の変化も制作の変化も私にとってとても大切なことです。油彩を描いたり、鏡や水を使ったり、アクリルで立体を作ったり、素材も表現も変化しています。それにともなって、テーマもコンセプトも少しずつ変わってきています。次の個展でも新しい作品を発表する予定です(※展覧会詳細は下記)。ぜひ楽しみにいらして下さい。 

お2人ともお忙しい中メールインタビューにお答えいただき、大変ありがとうございました。 

企画展 「単位展 ― あれくらい それくらい どれくらい?」
2015年2月20日(金) - 2015年5月31日(日)

火曜日(5月5日は開館)11:00 - 20:00(入場は19:30まで)
*4月1日(水)- 5月31日(日)は開館を早め、10:00 - 20:00に変更します
4月25日(土)は六本木アートナイト開催に合わせ、通常20:00閉館のところを特別に24:00まで開館延長します
(最終入場は23:30)

入場料 一般1,000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料 *15名以上は各料金から200円割引 *障害者手帳をお持ちの方と、その付き添いの方1名は無料 *無印良品 MUJI passportアプリをご利用の方は、入場割引がございます(詳しくはアプリのニュースをご覧ください) その他各種割引についてはご利用案内をご覧ください

主催   21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団

後援   文化庁、経済産業省、港区教育委員会

助成   オランダ王国大使館

特別協賛 三井不動産株式会社、株式会社イッセイミヤケ

協賛  株式会社 良品計画

協力  株式会社エヌ・シー・エヌ、キヤノンマーケティングジャパン株式会社、セイコーホールディングス株式会社、株式会社 竹尾、公益財団法人竹中大工道具館、東京都計量検定所、パナソニック株式会社、株式会社マルニ木工、宮坂醸造株式会社(五十音順)

詳細はこちら

菅俊一 

研究者/映像作家/多摩美術大学美術学部統合デザイン学科講師。1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づいた 新しい表現の在り方を研究し、映像や展示、文章をはじめとした様々な分野で活動を行なっている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/0655」ID映像、modernfart.jp「AA'=BB'」、DOTPLACE「まなざし」、著書に『差分』(共著・美術出版社)、『まなざし』(ボイジャー)。主な受賞にD&AD Yellow Pencil受賞など。 

椛田ちひろ 

1978年福岡県生まれ、東京都育ち。2004年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。筆を使わず指と手で描いていく油彩画と、線を重ねていくボールペン画の双方を手掛ける。近作では鏡や水を使った作品も発表。2013年、ニューヨークの第101回ザ・カレッジ・アート・アソシエイション(CAA学会)の「畏れと憤悶の間で:東日本大震災における日本の若手作家の反応」という研究発表で作品が注目される。主な展覧会に「VOCA展2012」(上野の森美術館)、「あざみ野コンテンポラリーvol.2-Viewpoints」(横浜市民ギャラリーあざみ野)、「影をおりたたむ」(アートフロントギャラリー)、「fear/flight/fleeting」(LASALLE College of Arts)、「成層圏」(ギャラリーαM)、「MOTアニュアル2011-世界の深さのはかり方」(東京都現代美術館)などがある。

椛田ちひろ新作個展
フォロウイング・ザ・シャドウ
2015年5月29日(金)―6月21日(日)
アートフロントギャラリー  月曜休廊
東京都渋谷区猿楽町 29−18 ヒルサイドテラス A棟

椛田ちひろさんと参加作家の西本良太さん
椛田ちひろさんと参加作家の西本良太さん

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