西尾美也   2014.09


アラカワ・アフリカにて 
アラカワ・アフリカにて 

 昨年夏にアフリカから帰国され、現在、出身地奈良を拠点に活動されている西尾美也さん。今年は六本木アートナイトで参加型共同作品のための長期間に及ぶワークショップとメイン会場を含む3か所の展示、水戸芸術館「拡張するファッション」展に3年前に自ら立ち上げたファッションブランドFORM ON WORDSとして出展、倉敷市玉島「町を縫う」、京都市舞鶴「Gyo-Show」など、各地で地元の人々とのワークショップを通じて、その土地や人の記憶を読み解きながら新しい関係性を生みだしていくプロジェクトを続けている。今回は荒川区で開催中の5年目となるアラカワ・アフリカの会場へおじゃましてお話をうかがった。

アラカワ・アフリカ
少し早めに着いたので、水まきをされていたオーナーにお聞きして近くの喫茶店ロンに行ったんですよ。尾久は初めてですが、赤土小学校前から熊野前までの一駅分にもなる商店街は賑やかで面白いですね。まずはアラカワ・アフリカのこと、このOGUMAGとの出会いについてお聞きしたいと思います。 ここは以前家具屋で、オーナーが改修されたそうですね。OGUは尾久、MAGというのはマグネットという意味。人を引き寄せる場にしたかったとのことで、そこへ西尾さんがふらっと。

そうそう、学生の頃、僕はここから1分くらいのところに住んでたんですよ。駅に行く時に前を通っていたので、あ、きれいな空間ができたなぁって思ってた。オーナーのお母さんが僕の風貌をみて何か察知してくれたらしく「何かやっておられるんですか?」って声をかけてくださったのがきっかけ。僕らは西尾工作所ナイロビ支部の活動をしていたので、それを紹介していこうということになって。タンザニアでリヤカーを作るのを教えていた職人さんが地元におられるということで、リヤカーと僕のパッチワークの作品で二人展をやったのが始まりでした。町屋にはアフリカ屋さんという店があるし、つながりがみえてきて荒川とアフリカをつないでいく活動をしていこうということになったんです。ここは懐かしい場所で、毎年この企画があることによって帰ってこれるのでありがたいです。 

今日は音楽人類学者、矢野原佑史さんによる「カメルーンのヒップホップ・カルチャー」の講座や会期中常設のアフリカについての3つのドキュメンタリーフィルムがかわいらしいテントの中で上映されていました。明日は小沢剛さんの講座もあり、ダンスや料理などアフリカ文化を紹介するイベントも目白押しでしたが、今後はどのような企画を考えていますか?

ギャラリーの上がレジデンス仕様になっているので、将来的にはアフリカからアーティストを呼んでみたいと思っています。

ー土地を読み解いていく
6月末に終了した記憶に新しい「町を縫う」のワークショップについて、その始まりはどんな感じだったのでしょう。

ケニアから帰ってきたばかりの頃で、YCAMの企画で偶然大月ヒロ子さんと再会したことから。クリエイティブリユースの本にも載せていただいていたんですが、IDEA R LABのオープン前に誘ってくださって遊びに行ったんです。それで町案内してもらい町が面白いなというのが第一印象でした。写真が撮りたくなる町だなということとか、アルバムにあった同じ布で皆が服を作って集合写真を撮っているのも興味深かったんです。

ワークショップの中で、町の中で見つけたシンボリックな形を図案化してアップリケをしたことについてですが、以前ケニアでもKangaeruというワークショップがありましたね。

ケニアのカンガという布からヒントを得たんですけど、明確な柄があるカンガを再構成するというワークショップでした。

今回、芸大の同級生の川路あずささんにチラシデザインをお願いされましたね。西尾さんのコンセプトと町の雰囲気が美しく印象的でとても好評でした。チラシの中にもありますが、ワークショップのコンセプトを詩のように書かれていますよね。普段も詩など書かれるのでしょうか。あるいはワークショップに引用されることはありますか。

いつもは普通に文章を書きます。ワークショップの概要をわかりやすく。今回は、自分の中でまとまりきらない部分があって、詩として言葉を並べて考えました。文章として成立しなくてもいいかなと。そこからイメージが広がればいいなと思った。今回のワークショップは長期にわたるものだったけど、毎回がとても楽しかった。いい体験でした。

水戸芸術館が終わって玉島に入り、MIMOCA 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「拡張するファッション」巡回展、舞鶴のワークショップとお忙しかったですよね。 舞鶴「Gyo-Show」での商店街の人々を巻き込んだ野菜を身にまとった人とかラックを抱えている人などの写真を拝見しましたが、アイディアはアフリカで止まっている車に物を売りに来る光景があって、それが元になっているとお聞きしましたが。

僕がお題をわたし、身に付けられて売れるものをみんなで考えようというものでした。地元ならではということで、特産品の万願寺とうがらしなど商店街の方に協力してもらって。「小さいものやさん」というのは5センチ角くらいのものを商店街から集めてきて携帯して売るということをしたり。地元の特産品とか商店街の方が関わりやすいアイディアがどんどん生まれたんです。

「拡張するファッション」展は巡回という形で、水戸芸術館とMIMOCAがありました。私は残念ながら丸亀しか行けなかったのですが巡回といってもちがいはありますね。

僕らは水戸芸で行われたジャングルジムでのファッションショーをメインとして考えていましたね。その為の服作りのワークショップも丁寧に行いました。丸亀ではもちろん水戸で作られた服を試着して撮影できるようにしましたし、学芸員やスタッフの方が地元丸亀にある思い出に残る古着を集めてくださり展示することもできました。丸亀はドキュメント展と言えるかもしれません。巡回とはいっても丸亀の学芸員の方の熱意で、新たに地元の古着を集めたコーナーが生まれ、丸亀の日常がつながるような展示になったと思います。

ー言葉を身につけることと服を着ること
言葉と作品の組合せは西尾さんの仕事の中で重要なひとつの形のように思えるのですが、西尾さんはどのように考えていますか?ワークショップタイトルでも「くらやみおきがえ」「いただ着ます」などゴロ合わせ的な絵本のタイトルのようなちょっと遊び心のあるものが多いですよね。もともとダジャレが好きとか?

「人間の家/スカート」六本木アートナイト 2014      
「人間の家/スカート」六本木アートナイト 2014  

いや、ぜんぜん逆ですね。アラカワ・アフリカもそうですけど。考えとしては、言葉を身につけることと服を着るということと似てるなと思っていて。両方は無意識のうちに回りの大人からとか環境から自然に学習していくものですよね。それが当たり前になって、それ以外のものを習得するのが難しくなっていく。日本語を覚えてしまうと英語やアフリカの様々な言語などはむちゃくちゃ難しいなと思うことがある。人によりますが(笑)。

服もそれと同じように、自分が生まれ育った時代を当たり前に身につけるんやけど、いざアフリカの森の人の姿を見たら、自分でもやれと言われてもなかなか実感できないというか。自分が身につけてきたものからは簡単に抜け出せないみたいな、そういう意味から言葉も服も共通するものがあるなと思っています。
僕が服でやりたいと思っているのは、それを抜け出していくこと、自分が着ているものを切り開いて、別のところとつなげていくような新たなつながりを創造することなんです。言葉にしても単語はごくごく知られているものだけど、つなげ方を変えることでちょっと違う世界につながるような気がする。詩的なこととかゴロ合わせなどは、イメージを飛躍させる上で効果的かなと。それは僕が服でやりたいことの本質に近いと思っている。わかるけど、わからないというか想像や空想の幅をもたせたいんです。

西尾さんのプロジェクトは詩的なタイトルや古着=記憶とするヒントとして投げかけ、参加者が反応する、楽しむ、そこで変換されたものなどをまた西尾さんの感性ですくいとり、つなげていくというようなキャッチボールみたいなところがありそうですね。
ワークショップの現場で生まれる新たな発見とかアイディアなどを参加者と一緒に体験しながら、経験が積み重なっていくと思うのですが、そのようなことは記録として残されていますか?

そこは出来てないなー。たぶん、なんやろ、ぴんとくるとすぐ次の作品につながるか、思いだすものなので、逆にあえてやらないな。やったほうがいいのかもしれないけど。

新しいタイプの研究者として
研究者として論理立てて、学生時代から実践を重ね、アフリカでも新しいプロジェクトを次々に生み出しておられるので試行錯誤の成果物のような資料がたくさんあるだろうなと思っていたんです。博士論文を拝見していても、すでに実証された各地での数々の事例集が1/3くらいは占めていたような気がします。調査、記録作りなどはマメにされているという印象があって。

いや、それは案外嫌いなんです。それだけをしてしまうと、いわゆる研究者になってしまう。そもそも研究者としてやろうとしているわけではないんです。僕がやろうとしていることは実践することがそのまま研究になるような手法でもあって。それが芸術だと割り切って、表現していく。逆に通常の研究者として論文を書いている人に対して、閉じてしまうのではなくてこれもひとつの研究だということで、開いていく為にわざわざ論文を書いたという感じ。ひとつのコミュニケーションの手法です。僕はアーティストだからといって簡単に芸術の中に閉じてしまうのではなくて。

    六本木アートナイト2014  スタジオ
    六本木アートナイト2014  スタジオ

 

現代アートの側面はそういうところにもありますよね。とっつきにくいとか、わかりにくいとか、わからないならそれでいいとか、それ以上近づけないとか。西尾さんはまずコミュニケーションツールとしてワークショップをしたりプロジェクト活動をされていて、その手法が誰もが日常的に関わっている服を媒体にしているわけですね。  

 

人間の家/ スカート
人間の家/ スカート

そう、新しいタイプの研究者だととらえています。来年から奈良県立大学で教員になるのですが、芸術家は研究者だという立場で仕事をしていきたいと思っています。専任講師として着任する地域創造学部は、観光学、社会学など学生は領域横断的に学んでいくところですね。その中で僕は現代美術が今、町に出ていっているという現場での地域創造を考え、講義とフィールドワークを実践していきます。アートプロジェクトの実践が、研究であり教育内容となります。1年では4つのコモンズと呼ばれる領域の中から基本的な勉強をして、2年からはゼミとフィールドワークを通して、複合的な視野からプロジェクトを構成していくという感じになるかな。僕が入ることで作品発表という場も生まれる可能性もありますね。僕が荒川や舞鶴、六本木アートナイトでやっていることもそこに学生がくることで教育としてある種成り立つ側面があると。それは新しいコミュニケーションを生みだそうとしていたり、新しい文化を創造していくことだったりするから、その企画内容を学生が作ることが学びになっていくだろうと思っています。  僕の方法はアーティストがアトリエにこもって、一人で制作して発表するという形態ではないということです。今の社会において何が問題で、何に違和感を感じていて、そこをどうアクションをおこしていきたいのかということを実践していくことが現代的な研究だったり、教育そのものだと考えています。

                六本木アートナイト 2014  国立新美術館 「ボタン/雨」
                六本木アートナイト 2014 国立新美術館 「ボタン/雨」

ーナイロビと奈良生活
ちょっと1年前にもどりますが、西尾工作所ナイロビ支部などアフリカでの活動についてお聞きします。OverallSelf Selectなどプロジェクトがありますが、Webサイトを拝見するとナイロビの文化、歴史、日常生活など多岐にわたるリサーチと興味深い写真の数々、現代アートと言わずとも日々がアーティスティックで創造にあふれていて本から得ることのできない生き生きとした情報が紹介されています。奥さまの咲子さんと一緒に活動されていますが、デイリーコンポジションリサイクルアートなどもそうですが、ナイロビの良さなどを知らない人達に伝えるとしたらどのようなことでしょうか?

 

1度西アフリカのべナン共和国に行く機会があったのですが、こんなにちがうんやと驚いたことがあったんです。その違いがナイロビに感じている魅力そのものだと思うのですが、人のキャラクターが好きなんですね。なんやろな、好奇心が強いんです。何に対しても、何かが起こった時に、日本だったら儀礼的無関心というか知らないふりをするところを、むしろナイロビの人だったら例えば満員電車の異常な環境にも好奇心をもつはずだと。そんなに近くにいたら普通なら会話が生まれるだろうと思うけど。双方向での受け入れ方の違いというか。それは僕がSelf Selectでやりたかったことでもあるんですが。

あんなに簡単に女性も男性も着替えさせてくれるんだとびっくりしました。洋服ってただ着るだけではなくて、着こなすということもありますよね。どういう気持ちで交換してくれたのでしょうか。

ん、初回がパリだったんですけど、その時は大変でした。2回目のケニアではほんま楽しかったですよ。面白がってくれる。貧しいから服のストックがそんなにないので、友達同士で服を貸し合うというのは普通に行われているらしい。同じ村の子どもたちは共有するのが当たり前という感覚です。だからコミュニケーションをとるのが不得手な僕が服を交換することによって親しくなりたいんだということを普通に理解してもらえる。

一着の服をいろいろな人が着まわすみたいな感じでしょうね。

村の中に服のボックスがあって、みんなが自由に着ていて僕がやっていたパブローブのようなことが日常的に行われているんです。

パブローブはあの膨大な量の服を集め、公共の場で利用してもらうというのも洗濯を含め管理が大変だったのではないでしょうか。

山口でやった時は一応洗濯機も置いていて、物干しざおもあって。においで判断してもらうって(笑)。洗濯するのは誰でもよくって、本当はケニアと同様にタライで洗ってもらったら、同じような空気感も生まれるかなと思ったんですけど。

裁縫したり寄りあいみたいな井戸端的な感じでいいですね。

そうそう、でも実現できなかったんだけど。実際は家で洗濯してきてくれたり。

アフリカから帰国して、日本の生活はどんな感じでしたか? そして1年立ちますが帰国後の変化など。

2年間ケニアにいて楽しかったですが、治安や身分、経済的な状況から夜は外出できないとか他国に移動できないとか車ももてないなど制約も多くストレスがたまっていたので、いいタイミングだったとは思います。あえて夫婦ともに実家のある奈良という場を選んで、周りの人たちに助けてもらいながら子育てをしていくということも、困っているからというよりもコミュニケーションのひとつとして考えていて。自分らで活かしていけるものを活かしていくということで楽しんでいます。

    photo by mio kisaca
photo by mio kisaca

こどもの頃は奈良の町並みなんて興味なかったんですが、空気もいいし散歩もむちゃくちゃ贅沢だし。利便性だけ考えて東京や京都に住むという選択肢がなかったのは、ケニアにこもっていたことでどこでもやっていけると自信がもてたからかな。東京などの展覧会にもよばれない立場にいたからね。そういう度胸というか覚悟はできている。だからより自由になったかな。そして大学教員の仕事を得て、全部が持続可能な状況になってきているなとかなりポジティブにその状況をとらえています。先生になると作家としてはダメだと諸説あるけど、新しい領域に行く為の状況内破*という僕の考え方は全てにあてはまることで、あえてその状況をつかって次の領域にいけるんちゃうかなと思っていて。   奈良という場所にこもりつつ、教員という立場に身を置いて今までできなかったことを結果を急がず、長期的な研究としていつかそれが還元されればと思っています。                                                                                                                                                                                                        

*状況内破
逸脱者やアウトサイダーとして社会の外に立つ視点から表現や提言をするのではなく、すでにある状況(社会規範や役割構造)に身を委ねながら、その内側から行動することで社会を変革しようとすること。(参考文献:西尾美也『状況を内破するコミュニケーション行為としての装いに関する研究』平成22年度 東京藝術大学大学院美術研究科 博士後期課程 学位論文)

<アネモメトリ>インタビュー記事 2014.11
『服をとおして人びとを変えていく』 ~スローとローカル これからのファッション~つくり手たちの現在

【展覧会情報】
FORM ON WORDSとして参加
展覧会「服の記憶」 アーツ前橋   映像 ≪ノーテーション≫ファッションショー
2014/10/10日(金)~2015/1/13 (火)

アーティスト・イン・レジデンスとして参加
「ちびっこうべ」デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
2014/8/9(土)~10/19(日)

≪編集後記≫
西尾さんのワークショップやアートプロジェクトから発展し生まれたFORM ON WORDSというプロフェッショナルなチームの運営と美術館や地域コミュニティとのアートプロジェクトで休む間もない夏休み終盤、息子さんと一緒だった西尾さんは、ふだんは幼稚園の送り迎えや遊園地や図書館にも連れていく子煩悩なお父さん。ご自分の好きな長新太「へんなおにぎり」や谷川俊太郎の絵本などを読み聞かせる一面も。子ども世代にも響くような絵本も作ってみたいなと笑っておられました。これまでも水戸芸術館「日常の喜び」2008、「大地を包む 繊維からの再考」越後妻有里山現代美術館[キナーレ]/新潟2013など各地で作品を拝見する機会もありましたが、実際にワークショップの現場にご一緒することで 西尾さんのアートとしての行為はまさにワーク・イン・プログレスとして過程にこそ意義があると実感しました。それは毎回がライブで思いがけないことの連続。装い(被服)の概念を払拭し、そこに集う人々と手作業を通して再構築する中で有形無形の新たな何かが生まれ、派生的に多様な展開が待っているのだろうと今後がとても楽しみです。

                                                                                                                                                                                                            撮影協力 mio kisaca


西尾 美也(にしおよしなり)美術家/博士(美術)
1982年奈良県生まれ、同在住。2011年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。専門は先端芸術表現。研究作品《Self Select in Nairobi》《Overall: Steam Locomotive》と、博士論文「状況を内破するコミュニケーション行為としての装いに関する研究」で博士号(美術)を取得。 文化庁新進芸術家海外研修制度2年派遣研修員(ケニア共和国ナイロビ)等を経て、2015年奈良県立大学地域創造学部専任教員に就任予定。 装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開している。代表的なプロジェクトに、世界のさまざまな都市で見ず知らずの通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》、世界各地の巨大な喪失物を古着のパッチワークで再建する《Overall》など。装いに対する考察をもとに、2011年ファッションブランドFORM ON WORDSを設立。

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